神様よりも確かなひと
“一緒に初詣に行かないか?”
電話越しの赤司くんからのその誘いに勢いよく頷き、私は母に相談して母の着物を着ていくことになった。最初は私服で行くつもりだったのだが、母に婚約者と初詣に行くのなら着物は必須だと熱弁されてしまったのだ。
正直、着物なんて着ていったら随分と張り切っているように見えて恥ずかしいのではと思っていたのだが、今嬉しそうに私に微笑を向ける赤司くんを前にした途端、やっぱり着物を着てきてよかったと心から思った。
「似合ってるな、着物」
「そうかな? 赤司くんにそう言われると嬉しいな」
赤司くんの言葉に簡単に笑みが溢れ出てきて、単純な自分に呆れてしまう。でもそんなこと気にならないくらい嬉しかった。
するりと繋がれた手を何も言うことなく受け入れ、元旦ということで参拝客がいっぱいの参道を赤司くんに導かれながら歩いていく。人混みにもみくちゃにされかけながらやっとの思いで拝殿に辿り着いた私たちはお金を放り込み、手を合わせた。
──今年も赤司くんと一緒にいられますように。……あ、あと、大学にちゃんと合格しますように。
後者は蛇足だったかもしれない。失敗だったかもと眉をひそめて、私は瞳をそっと開けた。
「行こうか」
「あ、赤司くんは何お願いしたの?」
拝殿から離れながら問うと赤司くんは少し困ったように笑う。
「お願い事は人に教えると叶わなくなるとよく言うからね」
「あ、そっか。じゃあ聞かない方がいいね」
「いや……」
「?」
かぶりを振った赤司くんがぐっと私の手を引いて引き寄せた。間近に迫った彫刻のように整った顔に驚く私の表情さえも楽しむように、赤司くんは空いている片手で私の髪を梳いていく。
「オレ自身の手で叶えるから構わないよ」
自信たっぷりの笑顔を浮かべた赤司くんにどきりと胸の鼓動が鳴る。穏やかに微笑む赤司くんも彼らしいけれど、こうやって自信ある表情も赤司くんらしいと思う。どちらも笑顔も私は大好きだ。
「オレの願いは今年もと共にいられますように」
「っ」
自分と同じ願いを捧げてくれていた赤司くんに胸が打ち震える。自分だけが願っていたことではないのだと、同じように思ってくれているのだと、そう改めて実感して。
私は繋いだ手をぎゅっと強く握り返した。
「私も、同じだよ。一緒にいられるといいなって、私も思ってる」
「よかった。オレだけだったらどうしようかと思っていたんだ」
「まさか! でも赤司くんなら本当に叶えてくれそう」
「はは、任せて」
確かに神様に縋ってお願いするよりも、赤司くん自身にお願いした方が叶いそうな願い事だ。神頼みする赤司くんもあまり想像がつかない。赤司くんはやると言ったらやるタイプだし、きっと二人の願いを実現してくれる。
今年もきっと共に在れるだろうという予感、いや確信を私は得る。
「赤司くん」
「ん?」
呼びかけるとやはり彼は笑顔を向けてくれる。今までこの笑顔を一体いくつもらっただろうか。そして、これからいくつもらえるのだろうか。
未来がどうなるのか分からないけれど。未来に絶対なんて言葉、存在しないけれど。
それでも赤司くんと二人なら。二人であれば、何でも出来る気がして。何でも叶えられる気がした。
「今年もよろしくね」
「あぁ、よろしく」
冷気で冷えた頰に温かな唇のプレゼントが贈られて、私が体温を急上昇させるまであと数秒。